
写真提供:SNL KOREA 放送分/話題のセリフ「ムシンサ匂いがする」
「ムシンサ匂い(무신사 냄새)」は、韓国の大型オンラインファッションプラットフォーム「ムシンサ(MUSINSA)」で人気の定番アイテムを判で押したように組み合わせた、没個性な男性コーデを揶揄するスラング。黒ワイドパンツ+オーバーサイズのロゴT/フーディ+白スニーカーが典型例で、Coupang Play「SNL Korea」の放送をきっかけに2023年初頭から韓国MZ世代の間で流行語化した。
ムシンサ匂いとは?意味と由来#
「ムシンサ匂い(무신사 냄새 / ムシンサ ネムセ)」は、直訳すれば「ムシンサの香り」。実際の香りの話ではなく、「ムシンサで売れ筋ランキング上位のアイテムを上から下までそのまま着ているように見えるコーデ」を指す皮肉表現だ。韓国Z世代(10〜20代)の男性で爆発的に流行した結果、街中で同じシルエット・同じブランドの服を着た若者があまりに増え、「制服化」したことへの反動として生まれた言葉である。
火付け役となったのは、2023年1月にCoupang Playで放送されたコメディ番組「SNL Korea」の1コーナー。出演者が黒ワイドパンツに大きなロゴ入りのTシャツを着た男性キャラクターを見て「ムシンサ匂いがする(무신사 냄새 난다)」と言い放ったセリフが、SNSで爆発的に拡散した。放送以降、ファッション系オンラインコミュニティ(DCインサイド、PPOMPPU、Naverカフェなど)には「この服、ムシンサ匂いしますか?」と画像付きで質問する投稿が殺到し、一種のミーム化した。
ムシンサというプラットフォームの影響力#
そもそも「ムシンサ(MUSINSA)」とは何か。2001年に「無地のシャツ写真館(무지 신발 사진관)」というスニーカー写真コミュニティとしてスタートし、現在は会員数1,640万人超を抱える韓国最大のファッションECだ。2025年の年間レポートによれば、累計商品取引点数は8,300万点、検索クエリ数は4億2,500万件を突破。スニーカーだけで年間660万足が販売され、最売れの単品はナイキ「エアフォース1ホワイト」の5万5,600足だった。
つまり「ムシンサ匂い」とは、たった1つのECで1,600万人がほぼ同じランキングを参照して買い物をした結果として生まれた現象である。日本でいうユニクロ・GU的なポジションに、ストリート/スタイリッシュ系のテイストを乗せた存在と理解すると近い。

どんなスタイルが「ムシンサ匂い」?代表コーデ#
「ムシンサ匂い」と呼ばれる典型的なコーデには、ほぼテンプレと言える共通項がある。主な構成要素は以下の通り。
- トップス:オーバーサイズの黒・白・グレーのロゴ入りTシャツ/フーディ。ブランドは「コバナシリ(covernat)」「マルシエル(MARSHE)」「LMC」「Thisisneverthat」など、いわゆる「無神社4天王」と呼ばれる定番ストリート系
- ボトムス:黒のワイドパンツ/バルーンパンツ/カーゴパンツ。シルエットはとにかく太め
- シューズ:ナイキ「エアフォース1 ホワイト」「P-6000」、ニューバランス「530」「993」、サロモン「XT-6」など、白を基調としたダッドスニーカー
- アウター:シーズンによって黒のショートパディング/フリースベスト/コーチジャケット
- 小物:MLBやニューエラのキャップ、クロスボディバッグ、ラウンドメガネ
色味はモノトーン+差し色1点。全体的に「無難で清潔感はあるが個性はゼロ」というのが共通評価だ。韓国のファッションコラム「On Curation」も「画一化されたファッションが生んだムシンサ匂い」と題し、SNS時代のアルゴリズム推薦が同じコーデを量産する構造を批判している。
「ムシンサ匂い」典型コーデ早見表#
| パーツ | 定番アイテム | 代表ブランド |
|---|---|---|
| トップス | オーバーサイズロゴT/フーディ | covernat、LMC、Thisisneverthat |
| ボトムス | 黒ワイドパンツ | 無印良品、ムシンサスタンダード |
| シューズ | 白ダッドスニーカー | Nike Air Force 1、NB 530 |
| キャップ | ロゴキャップ | MLB Korea、ニューエラ |
なぜ揶揄される?ブランド側のジレンマ#
ファッション業界にとって、特定ブランドが「ムシンサ匂い」のレッテルを貼られるのは深刻な問題だ。10代から30代の男性が制服のように同じブランドを大量購入する現象は、短期売上には貢献するが、長期的にはブランドのレア感を損なう。実際、流行最盛期に「ムシンサ匂い」の代名詞とされた一部のブランドは、2024年以降に「もう着れない」「だっさい」と若年層から敬遠されるリバウンド現象を起こした。
これに対しムシンサ側は2024〜2025年にかけて、画一化からの脱却戦略として「個人化消費(개인화 소비)」を前面に押し出している。2025年の公式トレンドレポートでは、年間トップキーワードに「ランニングコア」「バッグカスタマイズ(백꾸)」「ニッチ香水」を選出。フレグランス検索数は前年比+24%、ランニングシューズ販売数は+83%という伸びを記録し、ユーザーごとに細分化された嗜好消費へ大きく舵を切った。
ムシンサ匂いの対義語は?2025年のMZ世代トレンド#
「ムシンサ匂い」の対義語として2025年に注目されているのが、「アーカイブファッション(아카이브 패션)」「올드머니(オールドマネー)ルック」「Y2Kリバイバル」「コテコア(cottagecore)」など、個人の趣味性が強く出るスタイル群だ。古着・ヴィンテージ・デザイナーズ古着を組み合わせ、ECランキングからあえて外れたアイテムを選ぶことがステータスになっている。
また、ランニングを起点としたウェアをタウンユースに落とし込む「ランニングコア」、バッグにキーホルダー・チャーム・刺繍を加えて唯一無二化する「백꾸(バッグ飾り)」も、まさに「他人と被らないこと」を価値とする現代的アンチテーゼと言える。韓国MZ世代のファッションは、画一化フェーズから「自分だけの記号」を探すフェーズへ移行中だ。
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